コラム

ニューロダイバーシティ採用とは:オムロンの事例より

今月発売されるAERA最新号にて、『発達障害を強みに~「ニューロダイバーシティ」が社会を変える~』というタイトルのメイン特集記事が組まれています。

それに連動したWEB上での記事もありましたので、今回はそのなかで紹介されているオムロンの障がい者雇用の事例を取り上げてみたいと思います。

オムロン「尖った特性を生かす」発達障害のある人を積極採用、能力発揮のために配慮も_AERA 2025年1月20日号より

オムロンといえば古くから障がい者雇用の先駆け企業のひとつとしてすでに有名ですが、記事を読み進めてみると、昨今話題になっているニューロダイバーシティの考え方を踏まえたうえで更にアップデートされた障がい者雇用を行っていることがわかりました。

その実践事例は企業としてのあるべき姿について多くの示唆を与えてくれるものだと感じましたので、重要だと思われるポイントをいくつか挙げながら感想を述べたいと思います。

まず、発達障害の特性を強みに変えるためには、環境や仕組みの整備が不可欠です。

オムロンソフトウェアが設けたベージュのパーティションで区切られた半個室はその象徴的な例です。

“同社社員で発達障害のある田切寛之さん(43)は、この半個室をほぼ毎日使う。
「人の目があると、頑張りすぎて余計に集中して疲れてしまいますので」
半個室は自分のペースで仕事ができる大切な場所だ。“

ここで大事なことは、特性に合わせてベストなパフォーマンスが発揮できるように職場環境を柔軟に考慮している点です。

しかしもっと注目すべきことは、この半個室は決して発達障害のある社員だけのものではなく、リモート会議を行う他の社員も利用できる汎用的なスペースでもあるというところです。

このような工夫は、「障害のある人のための特別な配慮」ではなく、すべての社員が利用可能な環境を整えることが重要であることを示していて、ある種のユニバーサルデザインの理念にも通じるものだと感じました。

次に重要だと思われることは、ニューロダイバーシティ採用を導入していることで、企業の競争力につなげるために、障がい者雇用の枠を超えて、多様な才能を取り込むことに成功していることです。

“2019年からオムロングループ全体で「ニューロダイバーシティ採用」を本格的に始めた。発達障害のある人に得意なスキルで事業に貢献してもらう。チームは発達障害のある人の“でこぼこ”を理解して、不得意なことを支援する体制だ。”

これは具体的にどういうことかというと、いわゆる「ジョブ型雇用」を取り入れ、特定のスキルや仕事内容に適した人材を募集しているということです。

これにより、従来の面接中心の選考で見落とされがちな才能を発見することが可能になります。

例えば、自閉傾向が強く面接で話すことが苦手な大学院生が、プログラミングコンテストで優勝するほどのスキルを持っていたケースが挙げられています。

この学生はインターンシップを通じてその能力を発揮し、結果として正社員となり新商品の開発に貢献しました。

しかし、そうはいっても職場内のコミュニケーションはほんとうに大丈夫なのかという心配もあると思います。

理想通りにほんとうにうまくいくものなのかという点においては、現在はITスペシャリストとしてエクセルを使った社内ツールの作成、保守などを担当している田切さんのことについて、その上司の宮地さんが以下のように説明されています。

“コミュニケーションには大きな苦手意識はない。でも、口頭や文章で強い表現だと真に受けやすい。臨機応変な対応も苦手だ。仕事の依頼は、なるべく完成形を文章で示してもらうようにしている。”

“宮地さんは「不得意なことをオープンに出してくれたこともよかった」と言う。採用時には、能力を発揮するためにどのような配慮を求めるか、どう成長したいかなど、会社側から事前に質問を出しておいたところ、「聴覚過敏があるので、ノイズキャンセルのイヤホンを着けさせてほしい」などと文書で返答があり、その配慮を了承した。“

つまり採用時に「どのような配慮を求めるか」や「どう成長したいか」を事前に確認し、それぞれの事情に対応した具体的な配慮を行っているのです。

また一方では中村孝次グループマネージャからの以下の言葉からも、オムロンの手厚いフォロー体制が伺えます。

“何かあれば本社に常駐している障害者支援経験のある「専門家」が駆け付ける。
中村さん自身も変わった。心配ごとを抱えそうな人がいれば、すぐに相談に乗るようにした。“

才能がありながらも自身の特性で苦しみ思うようにいかなかった人たちにとっては、まさに最高の職場といえるのではないでしょうか。

さらにオムロンの取り組みで注目すべき点としては、発達障害のある社員の活躍が他の社員に刺激を与え、チーム全体の生産性向上につながっているという点です。

技術者同士のコミュニケーションが成功し、プログラミング用語を介した円滑な意思疎通が可能になった事例は、多様性がもたらすポジティブな影響を示しています。

特定の社員の能力が認められ、その成果がチーム全体に波及することで、新たな価値創造が実現しているといえます。

最後になりますが、オムロンの取り組みやそのコメントの端々からは、障がい者雇用を単なる法令遵守のための枠組みとして捉えるのではなく、企業の競争力や革新性を高める手段として積極的に活用する可能性を示していることがひしひしと伝わってきました。

つまり重要なのは、障がいの有無を超えて、一人ひとりの特性を理解し、それを活かせる環境を整えることです。

このような考え方は、現代の多様性を尊重する社会の中で、企業が持続可能な成長を遂げるために必要不可欠な視点ともいえます。

“「障害の有無にかかわらず、いろいろな性格の社員がいます。その人の特性・特徴、得意・不得意を知ったうえで、業務や依頼をするのが本来あるべき姿だと思います。障害のある社員と働くなかで、私を含むチーム全員が、誰に対しても、配慮をするのが当たり前だと学びました」”

オムロンのニューロダイバーシティ採用の考え方はすべてこの中村さんの言葉に凝縮されていますね。

就労移行支援 サスケ・アカデミー本部
本部広報/職業指導員
三浦秀章
HIDEAKI MIURA

36歳の冬、先天性の脊髄動静脈奇形を発症。 リスクの高い手術に挑むが最終的に完全な 歩行困難となり、障がい者手帳2級を取得。当時関東に赴任していた会社を辞め、地元の愛媛新居浜に戻り、自暴自棄の日々を過ごす。

41歳の冬、奇跡的にサスケ工房設立を知り福祉サービス利用者として8年半、鉄骨図面チェックの仕事に従事する。 50歳で一念発起しサスケグループ社員となる。

これからの目標・夢

障がいで困っている人の就職のお役に立ち、一人でも多くの仲間を増やすこと。

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