障がい者雇用の質の向上
昨年12月、障害者雇用促進法の改正があり、法定雇用率が段階的に引き上げられることが決まりました。
会社で働きたいと考えている障がい者にとっては喜ばしいことなのですが、雇用する側の企業にとっては、更なる課題を抱えることになったとも言えます。
というのも、日本全体の半数以上の企業が法定雇用率を達成していない現状があり、自社でどのように障がい者雇用をしていくかが定まっていない企業も多いと思われるからです。
また、一方ではただ単に数合わせをするだけの雇用となってはいけない、という法定雇用率の裏に潜む問題点も最近の報道でよく耳にするようになりました。
障がい者雇用の「数」と「質」の両立という連立方程式をクリアしていくことこそが、いま求められています。
今回ご紹介するAERA の2つの記事では、そのような課題に対して理想的な取り組みをしている企業が3社取り上げられていました。
それぞれの事例を読み解きながら、障がい者雇用のあり方について考えてみたいと思います。
“「障害者もビジネスに不可欠な存在」 企業と障害者を切り離さないベネッセ特例子会社の挑戦(AERA2023年7月24日号より)”
”障害者も組織の一員として仕事する仕組みを導入 資生堂はキャリアアップ転籍、東京建物は在宅勤務制度
(AERA 2023年7月24日号の記事より)”
ベネッセビジネスメイトの事例
まず一つ目の記事では、進研ゼミでおなじみのベネッセコーポレーションの特例子会社「ベネッセビジネスメイト」が紹介されていました。
ここでの取り組みの興味深いところは、一般的な特例子会社と異なり、独立採算経営を維持している点です。
特例子会社であっても「市場競争力を持つ自立した会社」を目指すという高いビジョンを掲げており、相手が親会社であっても外部企業との競争のなかで、結果的に質の高いサービスにつながっているというわけです。
また、親会社からの業務依頼が、そのコア業務部分であるという点も特筆すべき点で、親会社と完全に切り離された環境で働く雇用ビジネスとの大きな違いである点に触れられています。
これは、そこで働く障がいのある社員にとっては常に親会社と直結した仕事をしているのだという一体感を感じることができ、結果的にモチベーションアップにつながっているのだと思いました。
そして、最も興味深いと感じたのが、以下の内容でした。
“「コロナ禍以降は特に、すぐには障害者の社員に任せられない難易度の高い業務依頼が増えました。しかし断れば、その部門からは二度と依頼が来なくなります。このため、パートスタッフがいったん業務を引き受けた後、障害のある社員も無理なく対応できる業務への再設計に知恵を絞る役割を指導員に求めました」”
つまり難易度の高い業務だとしても、指導員が知恵を絞って業務の再設計を行うことによって、障がいのある社員への仕事につなげているのです。
しかも、そういったノウハウは自社内に留まらず、ホームページ上でも公開しているというのですから、このことからもベネッセビジネスメイトの障がい者雇用に対しての高い志が伺えます。
資生堂(花椿ファクトリー)、東京建物の事例
2つ目の記事では2社取り上げらており、そのうちの1つである、資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」の取り組みが目を引きました。
それは「キャリアアップ転籍」制度です。
この言葉からすでにお察しかもしれませんが、資生堂では特例子会社の社員から、親会社である資生堂の社員に転籍出来るという制度があるというのです。
そういった形で転籍された方もすでに5人いらっしゃるということですが、これは特例子会社で働く社員にとっては、たいへん夢のある話ではないでしょうか。
“同社が導入している「キャリアアップ転籍」は、企業内で働くベースができた障害者を親会社にいきなり転籍させるのではなく、受け入れ先の職場環境や業務内容、個々の特性、配慮事項などを十分吟味し、数回の実習を経て、マッチングを確認した上で判断する。転籍後も定着支援を行い、福祉分野の支援機関のフォローも随時得られる体制を整備している。”
この記事からもわかりますように、その転籍に至るプロセスや転籍後のフォロー体制なども含めて、障がいのある社員にとっては頑張りがいのある職場環境と言えますね。
少し話は違いますが、私自身は2013年からA型就労継続支援事業所であるサスケ工房の利用者として約8年間、主に親会社の白石設計からの図面チェックの仕事をしていましたが、今から2年前にサスケグループの親会社である株式会社白石設計の社員にさせていただいた経緯があります。
特例子会社とA型就労継続支援事業所という違いはありますが、親会社への転籍という意味では同じで、私自身がそのキャリアアップによって、いま充実した毎日を過ごさせていただいています。
A型で同僚だった利用者の方から「我々の希望になる」と言ってもらえたことが今でも印象に残っています。
花椿ファクトリーの社員のみなさんもきっとそのような気持ちを持ちながら頑張っているのではないでしょうか。
そして最後に、この記事の2つ目の企業として紹介されていた東京建物では、障がい者と企業の中間的な立場として活躍しているメンターの存在について書かれていました。
特に印象に残ったのは、在宅で働いている社員への以下の対応でした。
“メンターは早期に「不安の種」を見つけ、今井さんに対処を促す役割も担う。以前、今井さんが共有のチャット上で特定の人を指して仕事を依頼した時があった。すると、依頼されなかった人が「自分には依頼がなかった」と自信をなくし悩んでいた。このときもメンターの助言のもと、今井さんがすぐに対処した。”
今井さんは人事部グループリーダーとのことですが、こうしたメンターからの助言によって、障がいに配慮した適切な対応ができているというのです。
私自身も在宅勤務をしているのでよくわかるのですが、周りの社員の様子などが見えない分、ひとりで色々悩んだり、勝手な想像をしてしまうといったことがあります。
そういった状況のときに、こうした中間に立って話を聞いてくれるメンターの存在は、たいへん心強いですね。
まとめ
以上の企業事例から、これからの障がい者雇用のあり方として重要だと思われる点をまとめてみました。
- 障がい者の個別の能力と適性を尊重した雇用:障がい者が最大限に能力を発揮し成長できるよう、個別の能力を踏まえた仕事の割り当てや配置転換の機会を提供すること。
- 環境整備とサポート体制の強化:障がい者が働きやすい環境を整えるため、在宅勤務や職場のバリアフリー化、コミュニケーション支援など、必要なサポート体制を整えること。
- 持続的な支援と育成:障がい者が安心して働けるよう、専門の指導員やメンターの育成を行い、持続的なサポートを提供すること。
- 企業文化の変革:障がい者の雇用を当たり前のこととして受け入れる企業文化の醸成、多様性を尊重する風土を醸成すること。
- 障がい者雇用の啓発と周知:障がい者雇用のメリットや成功事例を広く周知し、企業や社会全体に理解と共感を広げるための啓発活動。
これらの取り組みが進むことで、障がい者がより多様な職場で活躍し、社会全体が豊かになればと願っています。
今回の記事に触れ、あらためて障がい者雇用はただ法定雇用率達成だけでなく、真に多様性を尊重した職場づくりに向けた取り組みとして重要なテーマであると感じました。