発達障害とは、脳の発達にバラつきがあることで様々な場面で生じる障害を指します。
働く上では発達障害による偏りが支障になることが少なくありません。
しかし、自分の特性を理解し、周囲から配慮を得られれば、自分らしく働きやすいでしょう。
ただ、発達障害の傾向があるのに診断がつかないケースもあります。
「グレーゾーン」と呼ばれる状態であり、周囲から誤解されたり、必要な支援を受けられなかったりする場合があるでしょう。
発達障害のグレーゾーンとされる場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
本記事では、グレーゾーンの特徴と対策、受けられる支援について解説します。
1.発達障害のグレーゾーンとは?
グレーゾーンとは、発達障害の傾向があるのにもかかわらず、診断基準の一部を満たさないことから診断が下りない状態を指します。
発達障害といっても幅広い症状を含みますが、具体的には以下のような症状が挙げられます。
自閉スペクトラム症(ASD) | ・相手の意図を汲み取るのが苦手 ・予定外の出来事に臨機応変に対応できない ・曖昧な言葉が理解しにくい ・感覚が敏感すぎたり、気づきにくかったりする |
注意欠如多動症(ADHD) | ・1つのことに集中できない ・落ち着かずに手を動かしてしまう ・思いついたことを後先考えずに言ってしまう ・時間管理が苦手で、締め切りに間に合わない |
学習障害(LD) | ・文字が読めず、言葉が理解できない ・文字の形をうまく認識できず、書けない ・計算ができない ・時計が読めない |
発達障害のグレーゾーンは、「診断をつけるほどではないが傾向はある」という、曖昧な状態だといえます。
この曖昧さが、受けられる支援や周囲からの認識などに支障を及ぼし、当事者の生きづらさに繋がってしまうのです。
2.発達障害の診断が付かない理由とは?
発達障害の診断には、DSM-5やICD-10といった国際的な基準が用いられます。
発達障害の傾向があっても、何らかの理由で診断基準を満たさない場合、診断が確定しないことがあります。
どのような理由から診断が確定しないのでしょうか。
2-1 幼少期の情報が不足している
発達障害の診断には、幼少期から特徴的なエピソードがあったかどうかが重要な情報です。
DSM-5では、ASDは発達早期から、ADHDは12歳以前から症状がみられたことが診断基準の1つとなっています。
しかし、大人になってから発達障害の診断を受ける場合、「昔の記憶が曖昧」「母子手帳などの幼少期を知る資料がない」ということが起こりやすいのです。
そのため、情報不足から診断が確定せず、グレーゾーンとされてしまうのです。
2-2 困難さが目立っていない
発達障害の特性があるからといって、生活や仕事において必ず支障が出るというわけではありません。
配慮があり、周囲にサポートしてもらえる環境であれば、困難さは小さくなります。
個人の特性と環境面の体制のかけ合わせで、生活の困難さは決まるといえます。
そのため、周囲に上手くサポートしてもらえており、困難さが目立たない場合は、発達障害の診断が下りにくいでしょう。
3.グレーゾーンの人が困るポイントは?
グレーゾーンだからといって、発達障害の人よりも困らないというわけではありません。
診断が付かないからこそ、いくつか困るポイントが生じるのです。
3-1 特性をオープンにしにくい
診断がついていない状態では、「自分には発達障害の傾向がある」と周囲にオープンにしにくいでしょう。
発達障害が原因で生じる働く中での問題には、特性に応じた環境面の配慮が必要です。
発達障害の診断を受けた人が働く場合、特性をオープンにして配慮をお願いすることがあります。
例えば、「口頭だけの指示が苦手なので、作業の合間にメモを取る時間を取らせて下さい」というような伝え方です。
グレーゾーンの場合、「自分にはこういう特性がある」と伝えにくいでしょう。
客観的な診断がないために、発達障害の人よりも周囲から理解を得ることが難しいのです。
3-2 必要な支援を受けにくい
発達障害の診断を受けると、申請までに時間がかかる場合がありますが、精神障害者福祉手帳が取得できるようになります。
手帳を取得すると、障害者枠での採用や就労支援機関でのサポートが可能となり、支援の幅が広がります。
しかし、グレーゾーンの場合は診断がないために、発達障害の病名での手帳申請ができません。
そのため、診断をついた人に比べると受けられる支援に制限があるといえます。
ただ、うつ症状やパニック発作など、二次障害として他の精神疾患が併発している場合には、その病名で申請することは可能です。
障害者枠での採用を目指す時には、発達障害以外の病名での申請を検討することもおすすめです。
3‐3 二次障害が目立ち特性に気づきにくい
発達障害グレーゾーンの人は、二次障害の方が目立ちやすく、特性に気づかれにくいことがあります。
例えば、適応障害やうつ病と診断されて病院に通院していて、次第にストレスの原因が特性から起こる困難さだと気づくような場合です。
「よく分からないけど、不安が強い」「色んな物事に敏感すぎる」といった生きづらさを抱え、その原因が分からずに困ってしまいやすいでしょう。
4.グレーゾーンの人が働く上で気をつけるポイントは?
発達障害と診断された人とは異なる難しさを抱えるグレーゾーンですが、働く上ではどのように気を付ければよいのでしょうか。
4-1 発達障害の特性への対処法を参考にする
診断がついていない状態でも、発達障害の傾向がある場合、基本的には発達障害の人に準じた対処方法が適切です。
例えば、以下のように対処を考えるとよいでしょう。
曖昧な説明が分かりにくく、相手の意図を汲み取れない | 「いつまでにするのか」「どこまでの工程をするのか」など具体的な事項を確認する。 |
予定外の出来事に臨機応変な対応ができない | ・事前に起こりそうなトラブルを予測、または周囲に確認しておく。 ・トラブル時に相談する人を決める。 |
作業に集中するのが難しい | ・作業に関係のないものは片づけておく。 ・短い休憩を挟む、違う作業を合間に入れるなど、スケジュールを工夫する |
4-2 診断がなくても利用できる支援機関へ相談する
発達障害の診断がない状態だと、受けられる支援は少なくなりますが、全くないわけではありません。
手帳の有無に関係なく、グレーゾーンでも支援を受けられる機関の例としては、以下のような場所が挙げられます。
発達障害者支援センター | 発達障害に関する全般的な相談、医療機関や就労支援機関の紹介などの支援が受けられる。 |
障害者就業・生活センター | 働くことと生活の両面でサポートする機関。ハローワークや就労移行支援事業所など、地域の就労支援機関との連携も可能 |
地域障害者職業センター | 働く準備や就職後の定着支援などを専門的にサポートする機関。手帳の有無に関係なく相談できる。 |
就労移行支援事業所 | 障がいを持ち、働くことを希望している人のために就労の準備を目的としたプログラムを提供する機関。自治体によっては、主治医の判断で利用できる場合がある。 |
5.まとめ
発達障害のグレーゾーンと呼ばれる状態は、とても曖昧で不安定な気持ちになる人も多いと言えるでしょう。
グレーゾーンだからと言って困らないわけではなく、周囲の配慮を得にくいなど特有の難しさがあります。
一人で対処するのが難しい場合は、適切な支援機関を頼り、どうすれば働きやすくなるか一緒に考えてもらうことが大切です。
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