ニューロダイバーシティとは、脳や神経の発達の偏りを障がいとみなすのではなく、多様性として尊重する新しい考え方です。ASDやADHDを始めとする発達障害は、何らかの能力が足らずに障がいを起こすという捉え方をされてきました。
しかし、ニューロダイバーシティの考え方では、障がいだとみなさず、その人なりの特色だと捉えます。発達障害の特性は、論理的思考力や精密さなどの強みと表裏一体の場合があり、強みを活かせるような配慮を重視します。
ニューロダイバーシティの考え方は、企業の人材確保の戦略としても注目されており、発達障害の方が働く環境が広がりを見せています。この記事では、ニューロダイバーシティが求められている背景や実際の働き方、企業が求める強みについて解説します。
1.ニューロダイバーシティが求められている背景
企業にとって、ニューロダイバーシティの考え方が重要視されている理由はどのようなものが挙げられるのでしょうか。
1-1 高齢化による人材不足
ニューロダイバーシティの考え方が普及している背景にあるのは、日本の労働生産人口減少です。高齢化が進むことで、2020年から2060年までに約35%も減少すると推計されています。
特に、IT業界においては、2030年時点で16万人~72万人の人材不足が生じるとの試算もあります。そのため、働く世代の中から新たなIT人材を発掘して人材不足を解消する必要があるのです。
近年では、IT企業において発達障害を持つ社員が高い成果を発揮する事例が報告されており、人手不足を解消する人材として注目されています。
参考:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」
参考:経済産業省(2019)「―IT 人材需給に関する調査―調査報告書」
1-2 国内外のIT企業で生産性向上効果が確認されている
発達障害の特性を活かした働き方を進めることで、生産性や技術力の向上といった成果が見込まれます。IT企業大手のヤフーでは、発達障害のある社員が専門業者が発見できなかった不具合を発見したという事例もあります。
発達障害の人が持つ、集中力や手を抜かない真面目さ、探求心の強さが、専門性の高いサービスを提供できる強みとして注目されているのです。
参考:経済産業省(2022)「イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査」
2.ニューロダイバーシティで推進される働き方とは?
では、発達障害を持つ人たちは、ニューロダイバーシティの考え方を取り入れている企業でどのように働いているのでしょうか。働き方は障害者雇用枠か、一般雇用枠かの2つに大別されます。
2-1 障害者雇用枠で働く(集合型)
一般社員とは別の雇用枠で特定の部門に採用される形です。同じ障害者雇用で採用された社員と共に働く形式で、集合型ともいわれます。障がい者の雇用に特化した特例子会社で働くケースもあります。
集合型の働き方は、発達障害に配慮した環境が整っていることが多いため、働きやすいでしょう。一方で、昇進や昇給がなかったり、正社員雇用ではなく契約社員であったりするなどのデメリットもあります。
2-2 一般社員と同じ部署で働く(分散型)
分散型は、一般社員と同じ部署に配属されて働く形態を指します。一般社員と同じ人事制度が適用されるため、給料も同等で昇進や昇給も見込めることが多いでしょう。
一方で、一般社員と同等の働き方を求められ、負担が大きい場合があるのがデメリットです。就職する前に、どのようなフォロー体制があるかを確認することが重要です。
3. 発達障害の強みとは?
ニューロダイバーシティでは、発達特性の弱みをカバーする配慮により強みを発揮することを重視しています。では、発達障害の特性が持つ強みとはどのようなものが挙げられるのでしょうか。
3-1 ASD:高い精度と論理的思考力、集中力
ASD(自閉スペクトラム症)は、細かい部分への注意力が非常に高く、精度の高い仕事をこなせるとされています。特に、興味を持つ物事に関しては長時間集中できる力や知識やスキルを習得する力が高く、高度な専門性を発揮できるといえるでしょう。
3-2 ADHD:変化を恐れず挑戦する姿勢
ADHDは衝動性の高さが特徴ですが、裏を返せば恐れず挑戦できるということが長所だといえます。また、刺激的な活動を好むため、既存の枠組みにとらわれない創造的な思考も得意でしょう。
3-3 LD:多角的で独創的な発想力
イメージを扱うことに長けている人が多く、多角的な視点で考えられる点がLDの強みです。全体像を把握することが得意な人が多く、パターンを分析する洞察力や違う分野の情報を組み合わせ、新たなアイデアを生む発想力も長所だといえます。
4.まとめ
ニューロダイバーシティの考え方は、障がいを能力の欠如や優劣で捉えないというだけでなく、人材確保といった前向きな意味でも注目されています。企業が発達障害の強みを活かそうと取り組み始めている今、自分にどのような特性や強みがあるのかを把握し、就業に繋げていくことが大切といえるでしょう。