ソニーグループの「障がいを感じさせない環境作り」の現在地(HumanCapital ONLINE(日経BP)_20251125)
前回はトヨタのチャレンジドパークの取り組みについてご紹介しましたが、今回もHumanCapital ONLINE(日経BP)の特集記事の中から、上記のソニーグループの障がい者採用の取り組みについて取り上げてみました。
前回に引き続き日本を代表する企業の事例から、これからの障がい者雇用のあり方についての感想、考察をしてみたいと思います。
“ソニーグループ創業者の一人である井深大は『障がい者だからという特権無しの厳しさで、健丈者の仕事よりも優れたものを』との信念をもってという言葉を残しています。”
この一文に、ソニーという企業の根底にある「人を信じる思想」を感じました。
障がい者だからといって特別扱いしないという姿勢は、一見すると厳しさの表明のようにも思えますが、実際には「同じ人間として能力を信じる」という尊厳の宣言だと受け取りました。
さらに井深氏は「仕事をする上での障壁を取り除いて、働きやすい環境を作る」ことも強調しており、この二つの思想が並立していることがとても重要だと思います。
「厳しさ」と「配慮」は対立するものではなく、どちらも“対等に働くための条件”だということに気づかされました。
“『常識』と『非常識』がぶつかったときに、イノベーションが産まれる”
この言葉は、ダイバーシティの価値を象徴していると感じました。
多様性とは「異質さの許容」ではなく、「異質さの衝突」から生まれる創造の源泉なのです。ソニーが創業当初からこの思想を企業文化として内包していたことは、本当に驚くべきことだと思います。
ダイバーシティ経営が「外来の理念」として導入される以前から、“多様性こそ革新の原動力”という考えを持っていたという事実は、ソニーが「障がい者雇用」を社会的義務のためのものだけで捉えてきたわけではないことを示していると思います。
“特例子会社だけで雇用するのではなく、どの職種でも障がいがある人を採用する方針は以前から変わっていません。”
この方針は、ソニーの雇用哲学を最も端的に示していると感じます。
障がい者を“特定の枠”に押し込めないという考えは、単なる平等主義ではなく、“社会的分断を生まない設計”を意味しているように思います。
多くの企業では、法定雇用率の達成を目的として特例子会社を設けていますが、それが時に「分離雇用」の形を取ってしまう現実があります。
その中で、ソニーは「一体的な職場」を実現しており、そこにこそ「感じさせない環境づくり」の本質があると感じました。
“『ソニーが求める人材なら障がいの有無は関係ない』”
この言葉に、同社の採用思想の核心を感じました。
障がいを持つ人を“特別な存在”としてではなく、“一人の社員”として迎え入れる。
この前提に立つと、障がいを開示することも「不利になる情報」ではなく「働くうえでの理解を促す手段」として位置づけられます。
森氏が「自分の障がいは最初から伝えた方がいい」と勧めているのも、相互信頼に基づく職場文化があるからこそだと思います。
“上長にだけは伝えてほしい”という言葉には、単なる制度的な安全配慮ではなく、社員一人ひとりの健康と尊厳を守ろうとする真摯な姿勢が表れていると感じました。
“数合わせを目的とした障がい者雇用は理念に反する”
この言葉には、現在の日本社会が抱える制度的限界への鋭い警鐘が込められています。
法定雇用率の数字だけが一人歩きする中で、本来の「雇用の質」や「職場での成長機会」が見落とされがちです。
森氏は、「数字を追い始めると、本来の目的を見失いやすくなる」と警告しています。
これは、コンプライアンス中心の発想から“人材戦略としてのダイバーシティ”への転換を促す言葉だと感じました。
企業が「障がい者を雇用している」のではなく「社員を雇用している」という森氏の表現には、単なる言葉以上の重みがあります。
そこには、障がいを“属性”ではなく“個性”として見る視点があると感じます。
“ソニー・太陽はソニーのマイクロホンやヘッドホンの主要工場として世界的な評価を得ています”
この記事を通して最も心を動かされたのは、特例子会社の在り方でした。
多くの企業では、特例子会社が「切り出し業務」を担うケースが多いのに対し、ソニーでは本業に密接に関わる中核的な仕事を任せています。
ここに、「障がい者雇用=社会的義務」という発想を超えた“戦力としての信頼”があると思いました。
さらに、「アクセシビリティをサステナビリティの一環と捉え、グループ全体で推進」している点も画期的です。
インクルーシブデザインを製品開発プロセスに組み込み、世界標準づくりにも関わっているという取り組みは、障がい者雇用が企業の「社会的善」から「事業戦略」へと発展していることを示しています。
この流れこそ、未来の働き方の方向性を示しているのだと思います。
“発達障害(神経発達症)に関しては、ジェネラルな仕事を無理にすることで二次障害を生じる可能性がある”
この言葉には、ニューロダイバーシティへの深い理解を感じました。
社会では依然として「どんな仕事も同じ条件でこなすべき」という暗黙の圧力が残っています。
しかし森氏は、「業務とのマッチングを工夫する」「業務を分解してアサインする」という形で“環境の側を変える”発想を示しています。
つまり、働きづらさを「本人の弱点」としてではなく、「仕組みの設計課題」として捉えているのです。
この視点の転換こそが、真の合理的配慮の実現であり、多様な人が安心して力を発揮できる社会の基盤になるのだと思いました。
“当事者には、その本人にしかできなかった経験があるはずです。その異なる経験を伝え合うことが価値創出につながり、社会を変える原動力になる。”
この結びの言葉には、深い共感を覚えました。
障がいの有無にかかわらず、人は皆「他者にはない経験」を持っています。
その違いを「足りないもの」ではなく「新しい価値の源泉」として捉えることが、ダイバーシティの真髄だと思います。
森氏の語る「経験を共有することが社会変革の原動力になる」という考え方は、ソニーがこれまで実践してきた文化の延長線上にあります。
つまり「障がいを感じさせない環境づくり」とは、障がいを隠すことではなく、“違いを価値に変える仕組みづくり”なのです。
最後に
この記事を読み終えて感じたのは、ソニーの取り組みが単なる「先進的企業の事例」ではなく、社会全体が目指すべき“共生の理想形”であるということです。
障がいの有無を超えて、誰もが「自分らしく貢献できる」ことが評価される社会。
その実現には、制度や理念だけではなく、こうした企業文化の成熟が必要なのだと強く感じました。

サスケ業務推進事業部
36歳の冬、先天性の脊髄動静脈奇形を発症。 リスクの高い手術に挑むが最終的に完全な 歩行困難となり、障がい者手帳2級を取得。当時関東に赴任していた会社を辞め、地元の愛媛新居浜に戻り、自暴自棄の日々を過ごす。
41歳の冬、奇跡的にサスケ工房設立を知り福祉サービス利用者として8年半、鉄骨図面チェックの仕事に従事する。 50歳で一念発起しサスケグループ社員となる。
これからの目標・夢
障がいで困っている人の就職のお役に立ち、一人でも多くの仲間を増やすこと。









