コラム

ツナガル・ブックが果たす役割とは:障害の社会モデルの考え方

今回は、ダイバーシティ&インクルージョンを重要な経営戦略としているNTTテクノクロスの社員、聴覚障がい者の佐藤真美さんが発案した「ツナガル・ブック」の取り組みについての記事を取り上げました。

NTTテクノクロスが目指す誰もが働きやすい職場とは。~聴覚障がい者との相互理解を図る「ツナガル・ブックTM」発行への想い~(PRTIMES STORY_ 2023.12.04より)

社名にもあるクロスとは、多様な人財がCROSSするという意味が込められており、まさに佐藤さんはNTTテクノクロスにおいて、その象徴的な存在とも言えます。

ここでは佐藤さんの前職での経験から、聴覚障がい者が抱える難しさや社会での偏見について述べられていて、そうした理解不足によって聴覚障がい者と聴者(健常者)の間での意思疎通に関する問題が生じていることを指摘しています。

そして彼女の凄いところは、ご自身の障がいによってもたらされた過去のつらい経験を逆に活かし、聴覚障がいのある社員への対応マニュアルである「ツナガル・ブック」を当事者視点で作成したことです。

その大きな理由としては、以下のように書かれています。

“世に出ている一般的なマニュアルの多くが聴者により作られており、聴覚障がい者が本当に感じていることや求めていることまで書かれていないことがあげられます。”

“「ツナガル・ブック」では「一方的な歩み寄りではなく双方向の歩み寄りを」という気持ちが伝わるように表現を考えたり、工夫したりしました。”

そのような目的で書かれた「ツナガル・ブック」とはどのようなものなのか、みなさん気になりませんか?

ツナガル・ブック

全43ページからなるこの「ツナガル・ブック」ですが、読んでみてここまで詳しく、そしてわかりやすく聴覚障がい社員への配慮事項が書かれたものはないと感銘を受けました。

例えば、聴覚障がいといっても大きく3つの種類があるということ、そして大半の方が感音性難聴であり補聴器をつけているからといってすべてクリアに聞こえるわけでもない症状だということを教えてくれます。

あるいは、聴覚障がい者との会話においてはまずは視線をしっかり合わせること、そして口の読み取りができるだろうと過信をせずに口元の動きがはっきり見えるようにすることが大事であること、コロナ禍以降マスク着用が増えたため聴覚障がい者にとってはよりコミュニケーションがとりづらくなったとの指摘など、まさに当事者ならではの視点が反映されています。

他にもオンライン会議などではなるべく文字チャットを多用することであるとか、筆談の際の要領についてなど、あらゆる業務場面を想定したうえでの細やかな配慮事項が盛り込まれています。

そして何より最も感心したのは、マニュアル全体を通して実際に困ったときの経験に基づく心の動きの部分にまで言及されていることでした。

このマニュアルを読めば、どんな人でも聴覚障がいのことが明快に理解でき、なおかつ必然性を感じながら真の配慮を実践することができると思います。

実際に以下のような活用もされているという話があります。

“社内では、当事者本人が今まで周囲に言いづらかったことを、「ツナガル・ブック」を上司に見せて、「自分の場合はこういうフォローが欲しいです」などと話しをすることができたと聞きました。”

このことからも、「ツナガル・ブック」がNTTテクノクロスが目指す「多様な人財がCROSSしながら能力を最大限発揮し、成長し続ける会社」の実現に大きな寄与をしていることがわかりますよね。

逆に言えば、NTTテクノクロスが障がいの有無に関わらず社員を真の意味で対等に扱う姿勢を持っているからこそ実現した取り組みとも言えます。
そのことを佐藤さん自身が以下のように述べられています。

“これは、障がいがある人を同じ人間として対等に見るという当たり前のことがきちんとできている会社だと言えます。そして何よりも私とどうすればともに働くことができるのかをいろいろと考えてくださっていることがとても嬉しく、この会社で同じ仲間として働けて良かったと日々感じていました。”

そして「ツナガル・ブック」は、社内だけにとどまらないマニュアルとしても活用されており、社会的意義の大きいものともなっているのです。
つまり、「ツナガル・ブック」の取り組みは聴覚障がい者に限らない今後の障がい者雇用において、大きな示唆を与えてくれているのです。

もし他の障がいに対しても社内でこのようなマニュアルがあったらなと思うのは、決して私だけではないはずです。
各障がい分野においても、佐藤さんのような方が社内でリードしていったときに、よりよい未来が開かれていくのだと強く思いました。

最後に、最も印象に残った佐藤さんの以下の言葉を引用します。

“しかし、少し考えてみてほしいのです。例えば、「テレビの音が聞こえない」というのは「聴こえないから」なのでしょうか?もし、テレビ番組に字幕があれば聴こえないことは問題ではなくなることもあります。更に手話通訳がつけば、日本語が苦手な聴覚障がい者にとっても障がいを感じにくくなります。このように、環境や制度が不十分であることが障がいを作っていることもあります。このような視点で考えていただけると、聴覚障がい者が「こうなってしまうのは自分が聴こえないからだ」と自分を卑下することがなくなり、ともに周囲の環境を良くしていくことができると思います。”

少し話題が変わりますが、今年芥川賞を受賞された障がい当事者作家である市川沙央さんも、ご自身が先天性ミオパチーの難病を抱えている立場から、読書バリアフリーが進まない現状のことについて述べられていました。

佐藤真美さんや市川沙央さんに共通することは、障がい者の「障がい」とは、「者」にかかるものとしての意味ではなく、「障害」は社会の側に存在するのだという「障害の社会モデル」の考え方です。

このことの意味を今一度考えていかなければならないのだとあらためて思いました。

就労移行支援 サスケ・アカデミー本部
本部広報/職業指導員
三浦秀章
HIDEAKI MIURA

36歳の冬、先天性の脊髄動静脈奇形を発症。 リスクの高い手術に挑むが最終的に完全な 歩行困難となり、障がい者手帳2級を取得。当時関東に赴任していた会社を辞め、地元の愛媛新居浜に戻り、自暴自棄の日々を過ごす。

41歳の冬、奇跡的にサスケ工房設立を知り福祉サービス利用者として8年半、鉄骨図面チェックの仕事に従事する。 50歳で一念発起しサスケグループ社員となる。

これからの目標・夢

障がいで困っている人の就職のお役に立ち、一人でも多くの仲間を増やすこと。

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