コラム

トライアル雇用とは:川田製作所の事例より

今回は、神奈川県小田原市にある川田製作所の障がい者雇用の事例について書かれた記事を取り上げてみたいと思います。

発達障害者も「スーパー総務」と重用する零細企業(東洋経済ONLINE_2024.06.15より)

まず先にお伝えしておかなければいけないことは、これは東洋経済というビジネス系の出版社の記事なので、どちらかというと障がい者を雇用する企業寄りの内容となっています。

ですので助成金などの制度の説明もありますが、これは障がい者雇用が遅々として進まない企業もある現状において、少しでも積極的に取り組んでもらうためのものとも言えます。

これから就職を目指す方にとっては直接的に必要な情報ではない部分もありますが、なかには企業側、障がい者側双方にとってメリットが大きい制度のことにも触れられていました。

それが、障がい者雇用のトライアル制度です。
俗に「トライアル雇用」と言われていますが、すでにご存じの方もいらっしゃるでしょう。

ここではまず川田製作所で働く女性のことに触れ、その事例を通じてトライアル雇用のことについて考えてみたいと思います。

川田製作所で活躍する障がい者

“川田製作所は従業員20人ほどの小さな会社で、総務担当は佐々木さんしかいない。年末調整の手続きなどもこなすが、これはインターネットを駆使して自ら知識を学んだ。”

記事タイトルにもありますが、川田製作所には総務に佐々木さんという発達障害を抱えている女性が一人いらっしゃいます。

すでに入社してから9年目ということですが、他に総務の事務はいないということで、いかに彼女が川田製作所にとって必要な人材となっているのかはこのことからもよくわかりますね。

「わが社が誇るスーパー総務です」との川田社長のコメントからも、いかに頼りにされているのかが伝わってきますが、最初の頃は会社側としても課題はあったようです。

“入社当初の佐々木さんは、コミュニケーション面で同僚とうまくいかないこともあったという。そこで川田社長は現場のリーダー格の社員を中心に勉強会を何度か開いた。”

つまりその特性を周りの社員が理解することが必要だったのです。

発達障害については今でこそ認知が広がってきて理解が進んできているとは思いますが、おそらく当時は社員によってはあまり理解されていない方もいたのかもしれません。

やはり仕事をするうえで、お互いのコミュニケーションは最も大事なことと言えます。

“佐々木さんからも要望を聞いたうえで、周囲が具体的な指示を出すように心がけると、本人もそれに応えて懸命に働いた。成果が上がるようになると、徐々に信頼関係が醸成されていく。その過程で業務の内容を明確化したことで、無駄が減って効率化が進む効果も得られた。”

こうした会社側の努力もあって、後に佐々木さんはスーパー総務と称されるまでになったのです。
まさに障がい者にとっては理想的な会社かもしれません。

社員数は20人ほどということですが、法定雇用率の観点からすると、必ずしも障がい者を雇う必要はありません。
しかし、川田製作所では現在、佐々木さんを含めて精神や知的、身体障害などを含めて、なんと5人の社員がいるのです。

実は川田製作所は記事にもありますように、2012年に神奈川県から「かながわ障害者雇用優良企業」に認定され、また2022年には厚生労働省による「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」にも選ばれています。

トライアル雇用とは

会社の規模が小さくても積極的に障がい者を採用してきた背景には何があるのか。

すごく気になるところですが、以下の川田社長の言葉から、その考え方がはっきりとわかりました。

“実は佐々木さんを採用した際、最終面接に進んだ候補者は3人いて、あとの2人は健常者だった。なぜ、あえて障害を抱える佐々木さんに内定を出したのか。川田社長はその決め手をこう語る。
「障害の有無は関係なく、ウチに合うかを考えた結果です。彼女は高校でパソコン部に所属し、就職を見据えてワードやエクセルの資格を取得しています。目標へ向かって努力する姿勢を感じられました」”

つまり雇用義務云々というよりも、純粋な戦力として障がい者を雇用していくという考え方なのです。

そして戦力として評価した人材に対しては、先の佐々木さんの事例からも伺えますが、入社後に出てきた課題に対してもその都度対応し、本人が長く勤められるような環境を作れるように努力されているわけです。

まさに会社として本来あるべき姿と言えるのではないでしょうか。

では戦力となる障がい者をどうやって見極めているのかというと、冒頭で述べたトライアル雇用という制度を活用しているのです。

“同制度は厚生労働省が管轄する事業で、障害者を原則3カ月(テレワークは最大6カ月、精神障害者は同12カ月)、実際に雇ってみて適性を見極められる。”

これは企業側の視点であり、トライアル後に不採用となるケースもあるので、確かにある種の厳しさの部分でもあります。

しかし、ここについてはやはり健常者であっても障がい者であっても同じとも言えるわけで、面接の段階だけで合否の白黒がはっきりしてしまう一般的なものに比べると、非常に良心的だとも言えます。

“働く障害者側にとっても、職場の雰囲気や業務の中身を事前に知れる利点がある。ミスマッチを防げるため定着もしやすい。”

実際に就職したあと、結局そこの職場環境や仕事内容が合わず、辞めてしまうというケースも多々ありますが、トライアル雇用を踏まえたうえであればより定着しやすいものとなり、双方にとって大きなメリットがあるのです。

障がい者雇用の求人などを見てみると、実際にトライアル雇用として募集をされている企業もいろいろと出てきます。

人によっては本採用ではないという点でそこまで魅力を感じないのかもしれませんが、一番大事なことはその会社に入ってからのことです。

就職をすることはゴールのように思えますが、実はそうではありません。

まさに入ってからがスタートとも言えるので、自分にとってふさわしい会社なのか仕事内容なのかを見極めるということは、会社側だけでなく本人にとってもたいへん重要なことだと思います。

ぜひ、これから就職を目指す方にはこのトライアル雇用も選択肢のひとつとして考えてみてください。

就労移行支援 サスケ・アカデミー本部
本部広報/職業指導員
三浦秀章
HIDEAKI MIURA

36歳の冬、先天性の脊髄動静脈奇形を発症。 リスクの高い手術に挑むが最終的に完全な 歩行困難となり、障がい者手帳2級を取得。当時関東に赴任していた会社を辞め、地元の愛媛新居浜に戻り、自暴自棄の日々を過ごす。

41歳の冬、奇跡的にサスケ工房設立を知り福祉サービス利用者として8年半、鉄骨図面チェックの仕事に従事する。 50歳で一念発起しサスケグループ社員となる。

これからの目標・夢

障がいで困っている人の就職のお役に立ち、一人でも多くの仲間を増やすこと。

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